【第7回】 SSHと大学入試について考えてみましょう!

2025年10月28日火曜日

 皆さま、こんにちは。奈良県SSHコーディネーターの山田です。10月も下旬になり、防寒具が必要になる日もありますね。高校3年生の皆さんは大学受験対策に大変な時期かと思います。

そこで、今回はSSHと大学入試制度について考えてみたいと思います。先生方や高校3年生の皆さんは、よくご存じかと思いますが、現在の大学入試制度は多種多様になっています。国公立大学だけを挙げてみても、「一般選抜」に加え「総合型選抜」「学校推薦型選抜」があります。ご存じでない方のために説明しますと、「一般選抜」とは、従来からある共通テスト及び大学個別の二次試験の得点によって合格者を決めるものです。それに対し、「総合型選抜」とは、少し前はAO入試と呼ばれていたもので、単に筆記試験の得点だけではなく、高等学校での活動実績や大学での研究意欲を含め総合的に評価するものです。「学校推薦型選抜」とは、高等学校長の推薦を受けて出願し、高等学校での成績や活動実績を重視した上で、必要に応じて筆記試験や面接等を行う入試制度です。

SSHが始まった頃、多くの高等学校では「課題研究に力を入れすぎると、学力が低下してしまい大学入試に失敗してしまうのではないか?」という心配がされていました。しかしそれは、「真の学力」の意味についての誤解から生じた間違いであると言えます。文部科学省が示す現行の学習指導要領では、現代の教育において求められる学力を「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの要素としています。高校生の皆さんは、今はわかりにくいかもしれませんが、社会人になれば課題の発見・解決の連続で仕事を進めていくことになります。すなわち、単に知識があるだけではなく、もてる知識をいかに活用して、仲間とともに課題を解決するかが大切になるのです。このときに必要となる「創造性」「主体性」「協働性」などの資質・能力は、課題研究のような簡単に答えが得られない問題に真剣に取り組むことで自然と身に付くのです。そして、課題研究などに真剣に取り組める人を評価するために、「総合型選抜」のような入試制度が誕生し、多くの大学で実施されるようになったのだと考えます。

では、「総合型選抜」の実施のねらいはそれだけでしょうか。「総合型選抜」に出願しようとすると、その大学・学部・学科についてよく調査しなければなりません。それは、どのような教授が在籍され、どのような研究をされているかといったことまで及びます。実は、大学院の入試ではこのような調査を行うことは当たり前で、知り合いの大学教授にお聞きしたところ、単に筆記試験の得点だけでなく、研究計画書の内容などから研究意欲を評価し、総合的に合否を判定するとのことでした。すなわち、「総合型選抜」は受験生と大学・学部・学科との親和性をみる大学院入試に近いシステムで、大学にとっては研究者として戦力になる学生を獲得できるといったメリットがあるわけです。またこのシステムは、受験生にとっても大変メリットがあります。「一般選抜」において、大学名や偏差値だけで大学を選んでしまうとミスマッチが起こります。例えば、地学系の学科には「地球科学科」「惑星地球科学科」等がありますが、同じ学科名でも扱っている対象が異なる場合があります。具体的に言うと、固体地球や岩石・鉱物、地史のみの研究室のある大学もあれば、気象学や海洋学、場合によっては比較惑星学の研究室を有する大学もあります。生物系の学科でも、植物に強い大学、昆虫に強い大学と様々です。ですから、「総合型選抜」で念入りに研究室調べをした受験生は、入学してから後悔することは非常に少ないと言えます。

「総合型選抜」のメリットばかり述べてきましたが、では「総合型選抜」は「一般選抜」よりも合格可能性は高くなるのでしょうか。それは、受験生本人の能力・適性により異なると言えます。よく、「総合型選抜」では「一般選抜」で合格できないような大学に合格できて得だという話を聞きますが、これは大きな間違いです。「総合型選抜」で合格した受験生は、確かに筆記試験で問われる「知識及び技能」は合格基準に達していなかったかもしれませんが、それ以外の学力の要素で十分に基準に達していたため、合格できたのです。ですから、逆に「一般選抜」で合格した受験生が「総合型選抜」で合格できるとは限りません。要は受験生自身が、自分の能力・適性を正しく認識し、自分に合った入試制度を選択することが、進路実現にとっては重要だと言えます。

図 大学入試制度について